毎日新聞の乳がん記者による連載まとめ 有益で確かな情報が
基本データ
日本で乳がんと診断される女性は年間4万人を超え、増加の一途を辿っています。「どうして私が……」――がんと診断された人は誰しも、最初に思う気持ちだと思います。これまでの平穏な生活から一転して、どうすればよいのか分からない不安感と絶望感に苛まれてしまうものです。
一方、このような気持ちから立ち直り、がんと闘い、自分に合った治療法を選び、がんと向き合って生きている人もいます。
本書は、乳がん患者である記者を中心としたチームにより、毎日新聞で連載された「がんを生きる」「がんステージ4を生きる 笑顔で過ごしたい」「がん社会はどこへ 第1部~第5部」の記事から、乳がんに関する内容を中心にピックアップ。さらに、追加取材で内容を構成しています。どのような治療法を選べばよいのか、手術前や手術後の治療はどうするのか、患者と医療従事者とのコミュニケーションを良好に保つにはどうすればよいのかなど、乳がん患者やその家族に有益な情報をまとめた書籍です。
専門用語の解説、巻末付録として「乳がんの基礎知識」を掲載しています。
Amazonから
書名 | 乳がんと生きる ステージ4記者の「現場」 |
著者 | 毎日新聞生活報道部 |
出版社 | 毎日新聞出版 |
発売日 | 2016年10月14日 |
- 患者氏名:毎日新聞記者による取材対象者
- 種類:乳がん
- 発症年齢:***
- 病歴概要:***
- タグ・ジャンル
最初にお読みください
このサイトの書評を初めて読む方は、「おススメ書籍の使い方」をまず一読ください。
おススメ書籍の使い方 | がんケアネット以下の文章には、「末期」・「死」などが含まれている場合があります。
おススメポイント
毎日新聞記者による連載を書籍化。取材ならではの客観的内容も多数。
闘病記ではなく、乳がんに関する広範囲の取材記。毎日新聞の連載「がんを生きる」「がんステージ4を生きる」「がん社会はどこへ」から乳がんに関する内容を中心に選び、加筆修正したもの。乳がんの告知から7年経過した三輪晴美記者(2021年5月に56歳で逝去)が主体となっている。
女性患者からの視点による内容が多いが、がん患者共通の問題点も多く記載されている。また報道機関ならではのインタビュー記事も多い。 巻末には図解入りでの乳がんの基礎知識や参考サイトの紹介がある。
読み応えのある書籍だ。
こんな方へ
- 乳がんの方
- できる限り客観的な情報を得たい方
一部抜粋
以下、下線は私自身によるものです。
医師としてのもどかしさ
「家族は、最後に再発してがんが大きくなり、患者が苦しんだ記憶しか残らない。『抗がん剤治療をしたのに、やっぱり効かなかったのね』と」。その一方、医師が効果が低いと判断して「抗がん剤の投与はやめましょう」と言っても、患者側は「なぜあきらめるのか」と思う。
また、患者が、今のがん治療を批判する本を信じて「無治療」を希望した場合、「別の病院に行ってくれ」と怒り出す医師がいることについて触れ、「どちらの気持ちも分かる」と言う。「どんな治療をしても家族や本人が喜べなければ意味がない」。村田さんは医師としてのもどかしさを語った。
引用:p68
第3章 患者力をつける 1 告知をどう乗り越えるか 湘南記念病院「かまくら乳がんセンター」センター長の言葉
同センターでは定期的にカウンセリングや術後の体のケアなどを行う。また手術を受けた患者を中心に、年2回、土井さんの引率で温泉旅行に行く。旅館を借り切り、勉強会の後、術後のありのままの姿で皆で温泉に入る。参加者は必ずと言っていいほど生きる力を蓄えて帰るという。
土井さんは「『がん患者は悲劇のヒロイン』というイメージをマスコミが作りすぎている。私は『かわいそう」という言葉は使いません。もちろん大変だけれど誰でもなる病気。普通のことととらえないと生きていけない」と話す。
さらに、再発転移の告知で、患者が「理解していないな」と思うと、「次回は一時間、話しましょう」と伝えて帰ってもらう。きちんと理解すれば患者は必ずパニックから回復する。「中には『治らないなら治療はやめる』と言う患者さんもいるが、それは違うと思う。ただ延命するのではなく、つらいことが起こらないよう、治療することで快適な時間を長く作りましょうと、とことん説得します」
引用:p92-93
参考:
聖路加国際病院精神腫瘍科のグループ療法
2011年から同病院で試みられている「グループ療法」と呼ぶ精神的ケアの一環で、3日間のプログラムの最終日を迎えていた。グループ療法によって、患者のQOL(生活の質)が高まるとされる。知り合った患者同士が、その後も交流し、支え合う存在にもなる。
まず悪かったことを発表し合った。
「収入がなくなった」
「平穏な生活を失った」
「子どもを持つ可能性がなくなった」次に良かったこと。
引用:p95-96
「休みが取れた」
「家族や友人のありがたみを知った」
「人生に終わりがあるという自覚を持った」――。
会は温かな雰囲気の中で進んだ。
がんをはじめ、どんな病気や事故に見舞われても、人には「良かったことを見つけう」とする本能があるという。良かったことと悪かったことの両方を文字にすることで、その本能がより強く働く。時間がたつにつれ、良かったことが悪かったことを上回るように、健全な心を取り戻すことができるのだ。
がん=死ではない(聖路加国際病院 精神腫瘍科 部長 保坂隆医師)
保坂さんは「『がん=死』ではありません。まずは、そのことを心にとどめてください」と強調する。がんに対しては「告知」という言葉が使われるが、「それはがんのイメージが死と強く結びついているからです」。日本人の二人に一人以上が、一生のうち一度はがんにかかるとされる。そのうち、がんが直接の死因で死亡するのは6割で、残り4割は別の原因だ。「がんは糖尿病や高血圧と同じく慢性疾患と考えるべきです」。がんの治療法は確実に進歩し、近年、病の進行やつらい症状をより長くコントロールできるようになってきた。
「がんは生活習慣病」という考えも、しばしば患者を苦しめる。「過去の行いが悪かったために病気になった」と、自分を責めてしまうからだ。「ストレス、遺伝、体質…がんは『多因子性疾患』で、生活習慣病ではない」と保坂さん。
「そもそも、脳は臓器の一つです」。脳は、過去に向かっては後悔のネタを探し続け、未来については心配や不安の種を探すものだという。しかし脳は決して「自分自身」ではない。「後悔にさいなまれたり、不安に駆られたりしたら、『脳がまたやってるな。困ったもんだ』と思ってください」と話す。
「がんと診断された患者の3人に1人は、適応障害(軽いうつ)やうつ病を発症する。うつになれば免疫機能が低下して、がんの経過にも悪い影響を与えます。だからきちんと治さなければならない」と保坂さんは説明する。乳がんのホルモン療法によってもうつを発症する場合があるが、医師が知らないことも多いという。
引用:p96-97
この書籍の目次
はじめに
第1章 乳がんステージ4と生きる
第2章 迷える患者たち
第3章 患者力をつける
第4章 人生の舞台から降りない
第5章 自分らしく生きる
参考付録