公開日:2022年8月17日 | 最終更新日:2023年12月17日

本音での著者の語りが、共感できる

基本データ

乳がん治療は、ハゲる、太る、性欲ゼロになる。そして彼氏や夫は重荷に耐えかね浮気をし、金は湯水のように出て行く。それが現実。

35歳未満で罹患する「若年性乳がん」は、乳がん患者全体の2%。が、女性の12人に1人が乳がんに罹患する今となっては、決して少ない数字ではありません。人生で一番キラキラしているといわれる時期に乳がんに罹患してしまうことで、多くの試練が襲いかかります。

抗がん剤の副作用で脱毛することは世間にもよく知られていますが、何よりも乳がん治療は太ります。がん患者=やせ細る、というのはフィクションでありロマンです、残念。

また、おっぱいにメスが入りエグく変形することと、ホルモン剤治療の副作用で性欲が凪のように止まることにより、かなりの高確率で夫や彼氏に浮気されたり、離婚まで至るカップルがまあ多いこと多いこと。

更に、湯水のように出て行く治療費。高額療養費の限度額超えなど当たり前です。これを捻出するために、よほど実家が裕福(または夫が高収入)、保険が盤石でない限り、どんなに副作用で身体がしんどくても治療費捻出のため働き続けなければなりません。 そして、治療の副作用で不妊になる可能性も。将来を見越した賢い若年性乳がん患者は治療前に卵子凍結などもしますが、その費用も軽く10万円越え(保険適用外)です。

そんなこと書いていた本、今までありましたか? ないですよね。書店に行っても(乳)がんについて書かれた本は患者が欲しい情報ゼロ、役に立たないお涙頂戴の闘病記ばかり。

本書は若年性乳がんに罹患し、サバイブした著者、および同病女子の、全くお涙頂戴ではない、しかし治療中から治療後のお金、恋愛・結婚・妊娠、そして仕事について書かれた、軽妙洒脱・エンタテイメント感&情報満載・爆笑必至のエッセイです。乳がん女性や関係者はもちろん、乳がんなんて他人事と思っている人が読んでも絶対面白いと言ってもらえる自信あり! 

若年性乳がん罹患当事者たちが赤裸々に語る治療中から治療後のお金、恋愛・結婚・妊娠、そして仕事の話。

著者の松さや香さんも29歳で乳がん罹患、やはり治療費捻出のためハゲ隠しのウィッグをかぶり抗がん剤の副作用でゲロ吐きまくりながら働き、彼氏に浮気された挙句フラれ、その備忘録として記していたブログが某超大手出版社編集者の目に留まり書籍化の話が進むも「主人公が死なない闘病記って売れないんだよね」と言われ版元変更、『彼女失格』として幻冬舎より発売になりました。その後松さんは「乳がん罹患者でも普通に働けることを証明したい」と航空会社のCAに転身、そして『彼女失格』を読んだ男性から出会って3回目にプロポーズされ結婚。

今回の書籍の「序」として収録される文章が『現代ビジネス』(講談社の硬軟取り合わせた読み物サイト)で公開され、公開後1週間で400万PVを獲得し、『彼女失格』が出版後3年を経てまさかの重版出来となりました。

もっともリアルに乳がんを語れる乳がんサバイバーとして、 今、話題の人である松さや香さんが女子の時代と惜別し、乳がんと共に中年テンパイまで駆け抜けながら感じた「違和感」をまとめた待望の新作!

Amazonから
書名女子と乳がん
著者松さや香(患者本人)
出版社扶桑社
発売日2017年11月22日
  • 患者氏名:松さや香(1977年頃生まれ)
  • 種類:乳がん ステージⅡb
  • 発症年齢:29歳頃
  • 病歴概要:乳がんの経緯については前作の「彼女失格 恋してるだとか、ガンだとか」に詳しい。本著は、がん患者の本音を語っている。
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最初にお読みください

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おススメ書籍の使い方 | がんケアネット

以下の文章には、「末期」・「死」などが含まれている場合があります。

おススメポイント

がん患者も普通の人。私も共感することが多々ありました

治療・治療のお金・恋愛・結婚・妊娠、そして仕事について、ありのままを語った書籍で、世に多く出ている、いわゆるお涙頂戴の闘病記ではない。

がん患者も普通の人、というスタンスで女子と乳がんについて語る。「がん患者を神格化しない」というスタンスに近いと思う。このスタンスには、私も賛成だ。

本書は、治療に目途が立ち、さてこれから何をしようかと考えている人には一読の価値があると思う。

また、キャンサーギフトについての考え方、がんになったことは貧乏くじを引いただけ、といった指摘も、共感できる。他の闘病記にはない視点が多く、一読していただきたい。

※最初の著作である「彼女失格 恋してるだとか、ガンだとか 幻冬舎 2013.6.27」も読んだが、本書の方が私は好きだった。「彼女失格」は400ページを超えて少々長い感があった。

こんな方へ

  • 乳がんの方
  • 一通りの治療を経験し、何かをやりたい方
  • 治療費のこと、仕事のことなどを知りたい方

一部抜粋

下線は私自身によるものです。

冒頭で、彼女自身のスタンスを表明

がんの治療を通じて感じた感謝や愛、絆の素晴らしさならきっと誰かが書くだろう。だからわたしは徹底して「違和感」と「嫌悪」に終始した。なぜなら、乳がん治療の不安に飲み込まれそうな女子たちにとにかく「危機回避」をしてほしいからだ。それのみにつきる。この一個人の恥多き顛末記から「こんな風にはなりたくない!」とリスクヘッジし、治療に集中してもらいたい。全てが同じじゃなくても知っているのと知らないのでは、心の持ちようが変わるからだ。少なくともわたしはそうでした。

治療当時、力技の美談に埋没した乳がんキャリアの先輩たちの怒りや笑いが、闇を照らしてくれたよすがだった。そして、そんな女子を支える周囲の人たちには「こういう事態は避けなければ!」「俺は絶対こんなことはすまい!」といったイマジネーションの一助になれたらと願ってやまない。

引用:p5-6

治療の最中はSNSから距離を置く

ウィッグ姿にとどまらず脱毛した頭やセルフヌードと見間違う写真までハッシュタグ付でUP。「その姿に励まされました」「勇気をもらいました」のコメントに応えるようにエスカレートしていく自撮りを見ているとハラハラしてしまう。小さい承認を求めているつもりでも、出血の止まらない傷を負うことがあるから気を付けて~、と心で叫ぶ。

SNSの楽しいところは「いいね!」の数やコメントで、ライトな自己肯定感が味わえるところにあるけれど、一方で危ないのは上記のような「気まずい事実」をポストし、反応されないことで「盛り」に走ることだ。「二度吐いたってことにしておこう」「体温3度盛っておこう」……小さな関心を求めてこんなマインドに陥らないように気をつけてほしい。

がん治療中に限らず、特に冬場は熱が表示された体温計や、点滴打ってるところの写真をSNSにアップする人って異様に多い。けれど、あれ正直見ている側への一種の「迫り」を感じてしまう。子どもの頃、なにもないのに包帯巻いて登校する「かまってちゃん」と原理が同じだ。

SNS上でメンヘラ認定されたら最後、以降なにをアップしても色眼鏡で苦笑され2ちゃんねるで生ぬるくウォッチされるのが近頃の常。叩く対象を探すためにパトロールをおこたらない「自意識警察」や「炎上特定班」は、本日も絶賛出動中だ。がんの治療中という精神力を要されるフェーズのときはよほどメディアリテラシーと客観性に自信がある人以外は距離を取った方が無難だと感じる。

引用:p70-71

同じがん患者で盛り上がる気持ちもわかるけども……

よく大病した人がいう「残りの人生はおまけみたいなもの」という言葉があるけれど、わたしこれが全くもって好きではない。あきらめを良しとできるほど生きていない若年性と呼ばれる年頃にハードな治療を施した後、しれっとリリースされたところで待っているのは特別扱いなんて1つもされない社会生活。「おまけ」どころの騒ぎではない。

そこで再び歯を食いしばって必死に食い下がるしかないのだから、若いってキツい。そんな中、30歳以下の若年で発症する乳がん患者は全体のわずか2%といわれるので、同世代の患者さんに会うと「同じ!」と手を取り合いたくなる喜びがある。

同世代特有の視点で話し合えるのはうれしく、喜びが大きい分、ものすごくお互い分かり合えるような気もするけれど、冷静になれば「がん」は今の自分を形成するたった一部なだけ。支え合えることは素晴らしいけれど、一生の友達かのように寄り添うことは時期尚早な気がしてならない。

引用:p70-71

キャンサーギフトは違和感だらけ

キャンサーギフトという言葉を、がんになった人なら一度は聞いたことがあると思う。「がんがくれた贈り物」といわれるもので、がんになったことで気づけた人との絆や愛情、時間が持つ可能性、そしてなにより命の大切さ。それらに気づくきっかけになったがんにむしろ感謝という意味を持ち、患者間で闊達に使われている。

わたしは初めてその言葉を聞いたとき、正直しんどいなあ、と感じた。不遇の中でも前を向くべき!という力技。そして思いっきり、結果論。今、渦中にいて必死な人間に対してなだめるような上から目線がこの上なく窮屈だった。ちょっと待ってくだされ。わたしは乳がんになる前から人に言われるまでもなく、感謝も絆も感じているし、愛と奇跡を信じているよ

治療は日々のことだから、体調がいい日には草木にも感謝できるほど前向きにもなれるし、具合や機嫌が悪ければ『ミヤネ屋』見ながら口から呪詛しか出てこない日もある。

引用:p115-116

キャンサーギフト? 貧乏くじでしょ

患者会で出会った女子たちは「これからどうしよう……」と将来への不安をつぶやいた。治療の日々は、無我夢中で走っているけれど、とはいえ自分がどこに向かっているのかも分からない。そして治療のひと山を越えてしまうと、あとは思った以上に平坦な日常が待っている。

間違いなく大病ではあるけれど、自分の手足は思い通りに動いてくれるし、日常生活に正直大きな支障はない。横を見ると同世代の友人たちのSNSは、結婚だとか出産だとか、今日もいちいちかしましい。ライフイベント大充実の20代から30代にどうやら生涯の付き合いを余儀なくされた乳がんを携えて、わたし達はこれからどう歩いて行けばいいのか。

本書編集の露木桃子女史とのランチ中に「松さんと同じ若年性乳がんの女性に会ってみませんか? 猛者がいるんです(震え声)」と持ちかけられたのは、フリーランスのライター兼翻訳家の松平百合子さん(当時6歳・仮名)だった。

(中略)

「は? 乳がんになっていいことなんてひとっつもなかったですよ! 10年経った今でも心の底から腹立たしいですよ。キャンサーギフト? なにバカ言ってんだって話ですよ。ええ、思ってますよ。自分は貧乏くじ引いたって!」

引用:p182

がんは通院治療ができる時代。仕事はやめないで

そういう時代で「治療費のあて」を保険や親、パートナーありきで考えるよりも、「治療によるブランクを作らず、自分で自分を支える実績を作り自信を持つ」にシフトしていった方が、長い目で見たときにずっと生きる自信をもたらしてくれるとわたしは思う。

今現在就業中の人は職場への働く環境の相談、仕事をしていない人でも時短のアルバイトから始めてみてもいいと思う。1万円でも自分で治療費を捻出できることは絶大な自信につながる。もちろん体に支障をきたすほど働きすぎるのはよくないけれど、仕事そのものを「ストレス」と見なす風潮には正直疑問を感じている。

一番怖いことは、がんの罹患に必要以上に自信をなくし、社会から離れて孤独を深めてしまうことだ。社会とのつながりを、がんをきっかけに断絶してしまうのではなく、細くても繋いで行けることが重要だとわたしは思う。働くことは自分の体を自分が養えているという自信になり、他者との交流で得られる自信は承認欲求を満たしてくれる。 

社会のセーフティネットが盤石で、がんと診断されたら向こう一生医療費の負担がない国もある。でも今現在の日本はそうじゃないんだから仕方ない。できることをやる。やり続ける。生きるっていつでもそこそこ厳しいけれど、時間と力を投じた分は返してくれる。

引用:p230-231

この書籍の目次

はじめに
1章 人生で一番ファンクネスな時期「闘病中」
2章 同じように見えて、同じではないわたしたち
3章 どっこい生きてる風の中
4章 普通に働く
あとがき

「がん患者の本音」を知って、私もそうだと共感しよう