公開日:2022年9月13日 | 最終更新日:2023年12月16日

おススメ書籍カテゴリの書評から、これはと思う名言・迷言、参考になる情報を集めました。ここでは、患者家族である著者が示した「遺された人々・家族の思い」について気になる文章をまとめました。一読いただき少しでも参考になればと思います。

以下の文章には、「末期」・「死」などが含まれている場合があります。

妻を看取る日 ー 国立がんセンター名誉総長の喪失と再生の記録

妻の死後から数ヶ月、気持ちの変化

特に最初の一ヶ月は、心理的な痛みだけではなく、叫び声を上げたくなるような肉体的な痛みも繰り返し感じた。また、半身を失ったような感覚に陥ることもあった。

地べたを這うような日々は、終わりが見えなかった。永遠に続くのではないかと絶望的になった日もある。

しかし、三ヶ月ほど経つと、わずかではあるが回復のきざしが見え始めた。悲しみが癒えることはない。だが、時間とともに和らいではいく。時の流れに身を任せればよいのだ。こう思えるようになったのだ。

いま振り返ってみると、私は最初の三ヶ月でどん底を脱し、以後、心の回復はおよそ三ヶ月ごとに変化を遂げていったように思う。

石の上にも三年。三日坊主。仏の顔も三度まで ― 昔の人は、よくいったものである。三という数字には、何か人間の生理に沿ったものがあるのかもしれない。

引用:p144

歌に私は泣くだらう: 妻・河野裕子 闘病の十年

わが知らぬさびしさの日々を生きゆかむ君を思へどなぐさめがたし

「わが知らぬ」が何としても悲しい。その後のあなたの寂しさには、もう私は関わることができない。どんなに一人残される寂しさを訴え、悲しみを嘆いても、どうする術もない。

彼女は自分の死ぬということ以上に、これからは、これまでのように私を包んでやることのできないことを悲しみ、私を残してゆかなければならない、それが唯一の心残りであることを詠っていた。

引用:p192